以前のブログ記事で、消費税の税込表示・税抜表示のお話をさせていただきました。税抜表示が現在認められているのは、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」によるものです。
そしてこの特別措置法は、消費税が3%から5%に増税になっったときにうまく消費税分を価格に転嫁出来ないケースがあったことから、今回の増税時には増税分をあらゆる取引にわたり円滑に価格に載せるためにつくられたものです。
では、なぜ消費税増税時に価格が転嫁出来ないケースがあったのか、消費税の納税の仕組み等もふまえながら、説明したいと思います。
1.消費税の仕組みと理論上の事業者の負担
消費税が3%から5%になったのは1997年4月です。まずは消費税の仕組みについてみたあと、3%から5%になったときにどのような変化が理論上おこるのか考えてみます。
ここでは農家が野菜をつくり、卸売り業者に販売し、卸売業者はその野菜をスーパーに販売する取引を例にして考えてみたいと思います。なお話を簡略化するために、各事業者には仕入以外の経費が発生しなかったと考えて、金額も単純化してわかりやすくしています。
(1)消費税の仕組み(消費税が3%の取引で考える)
①農家が野菜を作り、卸売業者に103円(うち消費税3円)で販売していた。
②卸売業者は、103円(うち消費税3円)で農家から仕入れ、スーバーに206円(うち消費税6円)で販売していた。
③スーパーは206円(うち消費税6円)で卸売業者から仕入れ、309円(うち消費税9円)で消費者に販売した。
この場合、消費税は、最終消費者のみが全額負担することになるので、消費者は300円の野菜を買うと共に9円の消費税を負担することになります。
そして、その9円の納税は、消費者から9円を預かったスーパーが全額納税するのではありません。各事業者が「預かった消費税ー支払った消費税」の差額を計算することで、それぞれが分担して消費税を納めることになります。
ここでは、
スーパーが「(消費者から預かった)9円-(卸売業者に支払った)6円=3円」を税務署に納め
卸売業者は「(スーパーから預かった)6円-(農家に支払った)3円=3円」を税務署に納め、
農家は「(卸売業者から預かった)3円-(支払額なしのため)0円=3円」を税務署に納めます。
よって、消費者が負担した9円は、それぞれの事業者が「預かった消費税ー支払った消費税」の差額を計算し、納税することで、最終的には9円が国に納税されることになります。これが消費税の負担と納税の仕組みです。
(2)消費税3%のときの各事業者の利益
ではこの消費税3%のときの各事業者の手元に残る利益を考えてみましょう。
農家の手元に残る利益は100円(売上103円-税務署に納めた3円)、
卸売業者の手元に残る利益も100円(売上206円-仕入103円-税務署に納めた3円)、
スーバーの利益も100円(売上309円-仕入206円-税務署に納めた3円)
となり、三者全ての利益はここでは100円となりました。
(3)消費税5%のときの各事業者の利益
消費税が3%から5%に増税されると、それぞれの税込価格は、2%分だけ値上がりしますが、それでは各事業者の利益はどうなるでしょうか?
①農家が野菜を作り、卸売業者に105円(うち消費税5円)で販売することになります。
→消費税5円は預かっただけで、すぐ税務署に納めることとなるので、手元に残るのは100円です。
②卸売業者は、農家から、105円(うち消費税5円)で仕入、スーパーに210円(うち消費税10円)で販売することになります。
→スーパーから預かる消費税10円と農家に支払うた消費税5円の差額5円(10円-5円)を税務署に納めることとなるので、、卸売業者の手元に残るのは、210円-105円-5円=100円となります。
③スーパーは、卸売業者から210円(うち消費税10円)で仕入し、消費者に315円(内消費税15円)で販売することになります。
→消費者から預かる消費税15円と卸売り業者に支払う消費税10円の差額5円(15円-10円=5円)を税務署に納めますので、スーパーの手元に残るのは、315円-210円-5円=100円となります。
(4)消費税の増税があっても理論上は事業者の利益は変わりません。
ここで注目していただきたいのが、事業者の利益は、消費税が3%のときも、消費税が5%になってからも、事業者全員の利益はすべて100円で変わらないこととなります。
よって、事業者にとっては、消費税は、あくまで預かった額を納めるだけであり、負担をするのは最終消費者であることとから、理論上は消費税が何パーセントになっても事業者の利益に影響を与えない理屈になっています。理論上「消費税増税は事業者の利益には中立」なのです。
2.実際にはどうしても影響がでてくるのが現実
消費税は、最終消費者が全額負担するので、事業者にとっては、(納税する手間・コストはあっても)金銭的な負担はなく、事業者の利益にとって中立であることをみてきました。
しかしながら、実際には5%増税時にはそのようにならないケースもありました。経済は、理論だけで動いているのではなく、人間が行う活動ですので、心理面等も影響を与えるからです。
まず現実に起こりうるのは、最終的に消費税を負担する消費者が、従来より野菜を買うのに309円から315円へと6円負担が増えるので、当然節約しようとし、財布の紐が固くなってしまいます。その影響で、スーパーの売上が落ちてしまうことが考えられます。
そうなると、スーパーは価格を下げてでも販売しようとするのですが、価格を下げると当然利益は減ってしまいます。
そこで、現在は大規模チェーン化して立場が強いスーパーなどの小売は、その利益の穴埋めを仕入業者である卸売業者に対して、仕入価格の値下げ要求で解消しようとします。つまり、仕入れ価格は増税により本来206円から210円にあがるはずなのに、値下げを要求し、税込206円のままで仕入するように命じます。
結果として、スーパーは利益を維持できても、卸売業者の利益が減少していまいます。そして卸売業者もスーパーから求められた値下げ分の一部を農家に対して値下げするように求めることも起きてきます。
結局、(業種によっては違いがありますが)一次生産者や卸売業者などの中で力の弱い業者の利益が、消費税増税分値上げできないことで削られてしまうことになってしまうのです。
このような事態を避けるため、今回の増税時には「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が施行され、一部の例外を除いてほぼ円滑にみんなが価格転嫁出来たことになっています。ただ、増税により景気が冷え込んだことは事実でしょうから、全体としては事業者の利益にいい影響を与えるものではなかったでしょう。
以上、消費税の仕組みと増税による事業者の影響を見てきました。主要政党である自民党、民主党、公明党が消費税増税に賛成しており、マスコミも昔と違って反対する論調はほとんどないので、今後どんどん消費税はあがっていくことになるのでしょう。
私自身は安易な消費税増税には反対でもう少し支出削減のためにやることがあると思っているのですが、すっかり少数意見になってしまいました。せめて増税で、景気に悪影響を与えないようにはしていただきたいと思います。
今西 学
最新記事 by 今西 学 (全て見る)
- 数万円で買えるBrotherのモノクロレーザー複合機を使用中。スモールビジネスに高価な複合機は不要では? - 2018年5月11日
- 携帯靴べらに鍵をセットすることで靴べらを使うことを習慣化できました。 - 2018年4月17日
- 『健康診断という「病」』という書籍で会社の定期健診の意味を改めて知る。 - 2018年4月12日