法人成りによる社会保険料負担増を前向きに見るために

こんにちは。前回のブログで、個人事業主が法人成りをした場合、納税負担の減少より社会保険料の負担がかかってくるため、かえって事業主の手元資金が減ってしまう場合があることをお伝えしました。
でもこれは必ずしも悪いことばかりでなく、社会保険料を負担し厚生年金に加入することは考えようによっては前向きにとらえることも可能です。今回はそのような見方もお伝えしていきたいと思います。

(1)事業主自身に掛ける厚生年金保険料について
個人事業主から法人成りした場合には、事業主自身も従来の国民健康保険組合・国民年金から協会けんぽ・厚生年金保険へ加入することとなることから、事業主自身の社会保険料についても負担が増加するのが通常です。協会けんぽ・厚生年金の保険料は、協会けんぽの保険料が40歳以上の方の介護保険料を入れても標準報酬(注)の約12%、一方厚生年金の保険料は標準報酬の18%と約2:3の比率で健康保険より年金の保険料負担が大きくなります。

(注;標準報酬とは、毎月の役員報酬の額と考えてもらっていいと想います。ただし、年金については、標準報酬の上限が62万円、健康保険については、標準報酬の最大が139万円で、それ以上の毎月の役員報酬をもらっていても上限額となります。)

ただ、社会保険料のうち健康保険の方は、税金に近く、いくら保険料をたくさん払っても、いい医療サービスを受けられるものではないのですが(正確に言うと協会けんぽの健康保険についても傷病手当金・傷病手当金等標準報酬が高く、保険料を高く払っている場合には、多くの手当金等がもらえるケースがあるのですが、ここでは省略します。)、年金の方は標準報酬が高く、結果として高い保険料を支払っている方ほど、将来老齢厚生年金、(配偶者がいる場合等には本人死亡後の配偶者の遺族厚生年金、障害になった場合の障害厚生年金)の受給額が増えることになるのです。

北村庄吾先生が書かれている「お金のカベ」という書籍は、税金や社会保険制度の活用法を記した良書です。

その中で著者は、北村式年金額算定法として、国民年金の上乗せ部分である厚生年金の簡易な受給額の計算方法として、

「算式」 5,500円✕<働いた期間の平均年収の百万の位>✕<勤続(予定)期間の年数>

と示されています。
この算式は、毎年、「5,500円×その年の年収の百万の位の金額(ただし標準報酬に上限があるため8~9が上限)」を将来の厚生年金の受給額として積み立てていくことを意味しています。例えば年収6百万円なら、5、500円✕6=33,000円を65歳から亡くなるまで、毎年厚生年金としてもらえる権利を一年間の社会保険料の支払いで確定させたことになります。そして、厚生年金保険料を毎年払うことにより、その受給額も毎年積み上がっていくことになります。

 

よって、個人事業の時のように、同じ社会保険を払うのでも、国民健康保険料に60万円払って、国民年金(将来40年保険料を納めて満額で年間80万円程度の受給額)の保険料に20万円払うのとは違います。法人成りしてからは、社会保険料の中でも国民年金の上乗せである厚生年金である年金保険料の額が増えることで、将来受け取れる年金を増やす権利を受け取っていることになり、これは国に払って返ってこない税金とは違い、資産と考えることも出来ます。

手取額が減っても、将来の年金がたくさんもらえる資産を蓄積していることになるので、このあたりを考えると、法人化して厚生年金保険料を払うという事も前向きに考えることが出来るのではないでしょうか。

(2)従業員に掛ける厚生年金保険料について

従業員にとっても、社会保険に加入して、厚生年金に加入出来る事業所というのは、就職先を選ぶ上で安心感があると思います。もし厚生年金に加入していないと、将来、年金収入としては満額でも年間約80万円の国民年金だけになりますが、それだけで老後の生活をするのは難しい。となると一定額の貯蓄をする必要がありますが、中小企業の従業員については、それほどたくさんの額を貯蓄出来るほどの給料をもらっていないケースも多いはずです。また、退職金も大企業ほどもらえないケースも多く、厚生年金なしでは将来への不安を抱えて暮らしていかねばならないかもしれません。

 

そうであるなら、法人成りして厚生年金に加入出来るようになれば、従業員も厚生年金がもらえるという安心感を得ることができ、結果として社員の定着化にもつながると思います。

 

事業主にとっては従業員の社会保険料負担額は小さいとはいえませんが、いい人材が採用できたり、従業員が安定的に勤めてくるようになったりすれば、間接的にはその負担がプラスに働くと考えることも出来るのではないでしょうか。

以上、法人化することによる事業主にとっての社会保険料の負担増加は、個人事業のまま続けた場合より手取額を減少させることがありますが、もし仮にそうであっても、考えようによってはメリットもあると思います。個人事業主の方が法人化を検討されるときは、社会保険料の負担が重くなることは避けられません。ただ経営者自身の考え方・見方によっては厚生年金加入を前向きに捉えることもできるのではないでしょうか。個人事業主の方が法人成りを検討される際には参考にしていただけたらと思います。

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今西 学

今西 学

大阪の大東市(最寄駅:JR学研都市線の住道駅)で税理士事務所を開業中。(ホームページはこちら) このブログでは、税金・年金・お金の運用など日々の業務で気づいたことや、幼少の頃身体が弱かったことから常に健康で生きていきたいという思いで日々取りくんでいること等を記事にしています。 詳しくはこちら