小さな同族会社を設立する際の資本金はいくら?について考えてみました。

みなさん。こんにちは。now3のアドレスでブログを更新している大東市の税理士・社労士の今西 学です。

私の税務顧問のお客様は、法人がほとんどで、個人事業者のお客様は数少ないのが現状であります。そんな数少ない個人事業者として事業を行っているあるお客様が、利益も伸びてきたため、シュミレーションをしたうえで、この度法人成り(法人設立)をされることになりました。

その打ち合わせの中で、資本金をいくらにするかという質問をいただきました。私の方で、具体的に資本金をいくらにするという決定は出来ないのですが、アドバイスを求められたので、資本金を決めるときの考え方を整理してみました。

1.資本金について法律面から明確にアドバイス出来ること

(1)資本金の上限を考える

消費税の納税は、事業年度が1年の法人の場合は、前々期の課税売上が一千万円以上の場合に納税義務が発生します。しかし設立第一期と第二期は前々期の売上高がまだありません。結果として第一期と第二期は、免税となります。

ただし、事業年度開始のとき、つまり第一期と第二期の初日において、資本金が一千万円以上の法人は、上記の第一期と第二期の免税が、特例的に免税ではなくなり、納税義務ありとなります。

つまり、法人設立の時点において、資本金が一千万円以上あるときは、第一期から消費税を払わないといけなくなります。

よって、通常は、資本金は一千万円未満にして法人を設立する方が有利となります。特に、法人成りといって、個人事業者から法人になる方は、既に事業がある程度軌道にのっているから、法人にされるケースが多いと思います。

その場合には、第一期と第二期の消費税が、免税になる・ならないは大きな納税額の影響を受けることになります。

今回法人成りされるお客様の場合、個人事業者の現時点で売上が3千万円を超え、消費税納税額は、昨年で約130万円になっています。よって単純に計算すると、第一期と第二期の免税により、二年間累計で二百数十万円免税になることになります。

しかし、資本金を一千万円以上に設定すると、二年間合計で上記二百数十万円の消費税の免税が受けられず、その額を納税する必要があります。

よって、消費税法上は、資本金は、とりあえず一千万円未満で設立することが間違いなく有利でしょう。
(注:大会社の子会社などが設立した法人などの例外はあります。詳細が気になる方は国税庁のこちらのサイトよりご確認ください。)

(2)資本金の下限を考える

業種によっていわゆる許認可に必要となる最低限の資本金があります。一番よく出てくるのは、建設業許可をとる建設業を行う法人の設立の場合でしょう。

資本金500万円以上が必要で、もしその金額を下回る場合は、建設業許可を受けることができません。よって、建設業許可を受ける場合は、最低でも500万円以上の資本金が必要となります。

他にも、私自身はお付き合いしたことがないのですが、旅行業や労働者派遣業の会社設立で、その許可をとる場合にも、法律で定められた最低限の資本金があるようです。その場合は、その資本金以上の額を出資する必要があります。

2.そもそも株主になる人にとって出資するとはどういうことか?

上記の資本金の上限、下限については、法律で定められていることなので、質問されたときにすんなりとお答えすることが出来るお話です。

しかし、上記1(2)以外の許認可を必要としない事業、許認可は必要であってもその条件に資本金の最低額が定められていない事業も実際には多いでしょう。

ということは、多くの会社設立の場合、資本金1円~900万円(厳密にいうと、9,999,999円まで)の間でいくらに資本金をしようとも、法律的にはメリット・デメリットなく決められることになると思います。

よって、その選択範囲は広いです。このことが、かえっていくらに資本金をしたらいいのか悩ましくしている面もあります。

では、他に資本金の額を決めるにあたってどのような観点から考えたらいいのでしょうか?いくつかあげてみたいのですが、その前に資本金とは何かを簡単に押さえておきたいと思います。

(1)株主になるために出資するとは?

資本金は、法人を設立する際に、株主になる方(中小法人の場合は、代表取締役になる方一人のケースが多いでしょう)が、法人が使うためのお金として、株主個人のお金から拠出するものです。

この資本金は、出資された法人からみれば、借入金とは違い、返済不要となります。逆にいえば、出資した株主はそのお金が法人が解散するまで、基本的にはもう手元に戻ってきません。

また、株主は基本的には出資の範囲でのみ責任を負うことになります。会社が赤字で倒産したとしても、(銀行から個人保証をつけて、借りている場合は別にして)株主個人は、出資の範囲でのみ責任を負うことにになります。

簡単にいうと、出資した資本金の額はかえってこないけど、その金額の範囲を超えて株主としての責任を負うことはありません。

株主になるために、法人が発行する株券を引受し、資本金を払い込むということは、そのお金はかえってこないつもりで出資するということです。その代わり、その株主としての責任も出資の範囲内しか問われないのが原則です。

なお上場企業などでは株券を時価でいつても譲渡できますが、今ここでのケースは、本当の小さな法人を設立することを前提にして考えています。

(2)具体例をあげて考えてみる

例をあげて考えてみます。少し極端な例ですが、例えば、法人設立にあたり、100万円の車が1台、現金が当面の運営資金等も含めて100万円の、合計200万円が最低限必要な法人があったとしましょう。

その場合、銀行からの融資をうけないとすれば、一つの考え方として、資本金を200万円にして、自分の資金をかき集め、全額出資し、そのお金で事業をはじめたことにしましょう。

その場合で、その後事業がうまくいき、その法人に利益がでて、法人の現金が600万円になったとしましょう。そうなった時点で、自分の出資したお金200万円のうち、100万円を返してほしいと考えたとしたらどうでしょうか?

残念ながら先述のとおり、出資したお金は手元に戻ってくるお金でありません。よって、基本的には出資の額は返してもらうことは出来ません。

上記の条件と同じ会社を設立する場合で、必要資金の200万円のうち、資本金は100万円だけにしたとしましょう。

その場合、残り100万円分、法人に資金が不足しますので、株主になる方(この場合通常、同族会社の場合は役員でもあります)が、会社に100万円貸し付けたとします。

そうすれば、法人にとって必要な最初の200万円は、資本金100万円と役員(株主)からの借入金100万円でまかなうこととなります。

この場合、その後、その法人に利益がでて、法人に現金が600万円になったとしましょう。その時点で、株主(役員)は、最初に法人に貸していた100万円の返済をその法人に求めることは出来るでしょうか?

今回の場合は、法人にとって返済義務のある役員(株主)からの借入金なので、自分の手元にその100万円を戻すことも可能となります。

最初に法人を設立する際に、自分の資金を出資にするのか、会社に貸し付けるのかというのは、このあたりで違いが出てくるのです。

出資200万円より、出資100万円+貸付金100万円の方が、出資する個人のお金の観点からみれば、融通性はあると思います。

ただ、出資200万円の方が、取引先等からみれば、個人の財産からより多く返却されないお金を拠出しています。その点で、外見上、その設立した法人の株主の本気度を、高くみてくれる可能性はあるかもしれません。

3.資本金を考えるにあたって1以外で考慮すべきこと

では、資本金を決める際に上記1以外で考慮すべき点について述べていきましょう。

(1)取引先からみた信用面

事業の内容が、企業間取引だった場合、掛け取引、つまり商品を仕入して、その一ヶ月後に代金を払うというケースも発生するでしょう。

その場合、仕入先が、取引する会社の信用度を判定する際に、一つの判定要素として資本金の額をみることになるでしょう。あまりにも、小さな資本金の額は、一般的に信用されないものです。

なぜなら、資本金は株主が返済不要のお金として拠出している額で、その範囲で責任をとるということが決められています。

資本金1万円の会社は、極端にいえば、その1万円を放棄すれば、法人がつぶれても株主はその範囲でしか責任を問われません。そうであるなら、やはり資本金は多いほど信用されるという面は出てくるでしょう。

では、具体的に資本金はいくらあれば適正か?と問われた際、一つの基準は、会社法が改正される前の有限会社設立に必要であった資本金300万円かなと思っています。

手元に出資するお金がなく、資本金300万円は難しいケースもあるかもしれませんが、それに出来るだけ近づけるという考え方が一つの基準かも?と思います。

(2)金融機関から融資を受ける場合

金融機関から融資を受ける場合も、ある程度は資本金を積む必要があります。

個人事業で順調に拡大し、その実績を元に法人成りするときは、金融機関もその売上・利益の実績を見てくれるでしょうから、融資の可否の判断に資本金が占める割合も比較的小さいかもしれません。

ただし、最初から法人で事業をスタートする場合で、すぐに融資をうけたい場合は、日本政策公庫の創業融資に頼るケースが多いと思います。その場合、まだ実績のない事業・会社への創業融資になります。

よって、創業融資の額については、自己資金(資本金)の2~3倍というのが、融資額の目処と言われたりしています。銀行から融資をうけたい人は、ある程度そのあたりの事を考慮して資本金の額を決められる方がよいかと思います。

(3)(1)・(2)を気にしなくていい場合

今回、私がご相談に乗らせていただいた個人事業者の方は、サービス業の方です。よって、特に取引先からの大きな仕入というのもありませんし、金融機関の大きな融資がなくても、今後やっていけそうな法人の設立になります。

今までいろいろ述べてきましたが、結局このような法人を設立される方へのアドバイスとしては、一番はじめの資本金を一千万円未満で設立した方が有利という事以外、あまり「この金額」というアドバイスが正直しにくいものです。

今回は、個人事業の業務用資産として、使っていた資産等もあるので、そのあたりの資産を法人が購入出来るだけの資本金を考えるべきかもしれません。

また少額の金融機関の融資を受ける可能性も今後あるということを考えると、あまりに少なすぎる資本金もどうかと思います。

そんなことから、100万円程度が適正なのかも?という話をしました。といって、具体的な根拠のある数字ではありません。また最終的には、そのお客様が判断されることではあります。

ただ、お客様自身もどう決めていいのかわかないようなので、2で記載した出資するということの意味と私なりに適正と思われる金額の目安をお伝えしました。

以上、今回は、その打ち合わせ時の概略を述べてみました。いい形で、法人設立ができ、今後の事業の発展へとつなげていっていただければいいなと思っています。

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今西 学

今西 学

大阪の大東市(最寄駅:JR学研都市線の住道駅)で税理士事務所を開業中。(ホームページはこちら) このブログでは、税金・年金・お金の運用など日々の業務で気づいたことや、幼少の頃身体が弱かったことから常に健康で生きていきたいという思いで日々取りくんでいること等を記事にしています。 詳しくはこちら